子どもが誰かを叩いたり、噛んだり、物を奪ったり…。そんな“加害行動”が見られたとき、親としてはとても心が痛みますよね。「どうしてうちの子は…」と悩むママパパも少なくありません。
しかし、発達の段階によって“加害行動”の背景は異なります。
【1】乳児(0〜2歳ごろ) :自分で認識できない時期
この時期の加害行動(例:叩く、噛む、おもちゃを奪う)は、「相手を傷つけよう」とする意図は基本的にありません。
■行動の背景:
• 感情のコントロールが未熟(怒りや不快感を言葉で伝えられない)
• 興味の対象を探索している(噛む・叩くなどを通じて感覚を学んでいる)
• 遊びや関わりのルールをまだ理解していない
■ 乳児期の加害対応ポイント:
🟡 すぐにやめさせる(ストップをかける)
→「叩かないよ」「これは痛いよ」と短くはっきり伝え、手を優しく止めましょう。
🟡 表現の仕方を教える
→「嫌なときは『イヤ』って言っていいよ」「取られたら『返して』って言おうね」など、感情の代弁をしてあげることが大切です。
🟡 相手への共感を育てる種をまく
→「〇〇ちゃん、びっくりしちゃったね」「痛かったね」と、相手の気持ちを言葉で表現して伝えましょう。まだ理解は難しくても、少しずつ“気持ち”を学んでいきます。
🟡 環境を整える
→トラブルが起きそうな場面(おもちゃの取り合いなど)では、事前に分けて遊ばせたり、保護者がそばで見守ることで、未然に防ぐ工夫も有効です。
🟡 親の気持ちを整える
→「うちの子、乱暴かも…」と不安になる気持ちは自然です。でも、この時期の行動は“育つ途中”のもの。叱りつけず、落ち着いて対応することが一番の近道です。
【2】幼児期(3歳〜6歳ごろ):善悪の判断が少しずつ育つ時期
3歳を過ぎると、少しずつ“これはいけないこと”という社会的なルールや他人の気持ちを理解し始めます。それでも時折加害行動が出ることはありますが、ここからは“しつけ”や“学び”としての関わりが重要になります。
■行動の背景:
• 感情のコントロールが未熟(怒りや不快感をうまく言葉で伝えられない)
• 強いストレスを感じている
• 感覚が過敏/鈍麻で不快を感じやすい
■ 幼児期の加害対応ポイント:
🟠 事実と行動に焦点を当てる(感情ではなく)
×「なんでそんなことしたの!?」
○「〇〇ちゃんにおもちゃを投げたね。それは危ないことだよ」
→感情的にならず、冷静に「何がいけなかったか」を具体的に伝えましょう。
🟠 相手の気持ちを想像させる声かけ
→「〇〇ちゃん、どんな気持ちだったかな?」「自分がされたらどう思う?」と問いかけることで、共感の種を育てます。無理に答えさせる必要はありません。
🟠 やり直しの場を与える
→「『ごめんね』って言ってみようか」「どうしたら仲直りできるかな?」など、自分から関係を修復する体験を重ねることが、社会性の発達につながります。
🟠 冷静に一貫した対応をする
→「その場で叱って終わり」ではなく、何度でも繰り返し伝え、子どもが理解できる言葉で接しましょう。保育園や園の先生とも連携すると、統一した対応がとりやすくなります。
【3】学齢期以降(6歳~) :善悪の判断がつく時期
小学校に入ると、子どもはある程度「ルール」や「相手の気持ち」を理解できるようになります。にもかかわらず、友達を叩いてしまう、暴言を吐く、物を壊すなどの加害行動が繰り返されると、保護者も先生も「なぜ?」と困惑することが増えます。
この時期は、「本人なりの困りごと」や「感情コントロールの難しさ」が背景にあることが少なくありません。
■行動の背景:
• 言葉で思いが伝えられない(イライラや不安を表現できず、手が出る)
• 感覚の過敏・鈍麻(周りの音・匂い・触覚にイライラする)
• 自己肯定感の低さ(叱られ慣れてしまい、「どうせ自分なんて」と開き直る)
• 強いこだわり・パニック傾向(思い通りにいかないと感情が爆発)
• 成功体験の少なさ(うまくできない→怒られる→余計に不安定に)
■ 学齢期の加害対応ポイント:
叱る前にまずは観察。行動そのものよりも、「その前に何があったか?」に注目します。
🟡 「なぜその行動をしたか?」を探る
例えば:
• 友達にいきなり叩いた → 実はその前にからかわれていた
• 授業中に暴言 → 宿題がわからずにパニックになっていた
観察ポイント:
• 加害行動が出やすい時間帯や状況は?
• 誰といるとき? 何がきっかけ?
• 本人はその行動の後、どんな表情・反応をしている?→ 「きっかけ」「本人の苦手」「不安や怒りの理由」を見つけることが、対応の第一歩です。
🟡 安全の確保とルールの明確化
加害行動があった場合、まず大切なのは 「周囲の安全」と「子ども自身の安心」 です。
「暴力や暴言はどんな理由があってもダメ」というルールはブレずに伝える。
ただし、その場では叱るよりも落ち着かせることを優先。
→ 「深呼吸しよう」「今は一緒に静かな場所に行こうね」など、安全な状況に戻します。
🟡 気持ちと行動を整理する「振り返りタイム」
例えば:
• 「〇〇くんが近づいてきた時、嫌だったんだね。どうすれば叩かずに気持ちを伝えられたかな?」
ポイント:
• 「なぜダメだったか」ではなく、「どうすればよかったか」を考える
•子供が言えない場合は、親が代弁してあげる
• 視覚優位の子供には図や絵、言葉カードなどの手段を使うと効果的な場合あり
🟡 再発防止のための「作戦づくり」
例えば:
• 怒ったら→手をグーにしてポケットに入れる
• 嫌なことを言われたら→先生に知らせるカードを見せる
• 落ち着きたいとき→静かにできるコーナーへ行く許可をもらう
ポイント:
• 事前に「こういう時はこうする」というマニュアルを子どもと作っておくと、安心感と自己コントロールの力が育ちます。
🟡 「できたこと」をしっかり認める
例えば:
• ×「えらいね!」だけで終わらせない
• ○「叩かずに『やめて』って言えたの、すごくよかったよ!」
• 落ち着きたいとき→静かにできるコーナーへ行く許可をもらう
ポイント:
•加害行動が少なくなったときや、「叩かずに言葉で伝えられた」「落ち着いて深呼吸できた」など、小さな成長はその場で具体的に褒めましょう。→ これは “成功体験”を積むチャンス。自己肯定感アップに繋がります。
🟡 学校(や関連機関)との連携も忘れずに
例えば:
• 先生には「こういう場面で手が出やすい」「こういう対応が落ち着きやすい」などを具体的に整理して共有する
• できれば支援者(発達支援センター、スクールカウンセラー等)を通して相談
ポイント:
• 他者からの意見も取り入れて、具体的にどんな時にどんな行動に出やすいか、子供についての理解を深めておく
まとめ
幼児期以降の加害行動は“本人も困っている”というサインであることが多いです。
加害行動がある子は、実はとても“繊細で敏感な心”をもっていることが多いのです。うまく表現できない苦しさが「行動」となって出ているだけ。
叱るだけではなく、その背景に寄り添い、「どうすれば困らずに過ごせるか」を一緒に考えていくことが、一番の近道になります。
子どもは、信頼されると自分の力で変わっていけます。焦らず、ゆっくり、できることを増やしていきましょう。
ただし、被害児童への誠意ある対応や謝罪、説明は今後の関係を保っていくのに必須です。
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